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幸子の他殺の証明・・・・3

待ち合わせ場所は、新宿のWというホテルのロビーだった。幸子はまだ来ていなかった。深夜12時の待ち合わせだったが20分を過ぎても、幸子はまだホテルのロビーには現れなかったのであった。さすがに心配になってきたAはホテルロビー内をぐるぐる歩き回ったり、していらいらしだした様子になってきたのであった。―果たして、幸子は来るのであろうか?次の日の約束を忘れることなんてあるのであろうか?―いらいらして過ごすこと十数分、果たして幸子は、・・・・と、その時、ホテルロビー玄関の回転扉から幸子の姿が突然現れたのであった。時刻はちょうどその時12時37分であった。とにかく幸子は約束どおり待ち合わせ場所に来たのであった。幸子は真っ黒の洒落たサングラスをしていた。たぶんどこぞのブランド物だろう。だが、残念ながら、種類もとても多いし、Aにはそのメーカーがどこのブランド物かを見分けるのは不可能であった。だからといって、幸子にブランド名を問うのも、なぜかこの場には合っていない台詞の感じがしたのであるので、どうしても躊躇されたのであった。真っ黒なこれまたブランド物と思えるワンピースを着た幸子の姿はどこかの深窓の令嬢を思わせる風情があったのであった。地味な装いのAと一緒だと非常に目立つ感じであった。「これじゃ釣り合いが取れないね。」思わずAはそう言ってそのあとなぜだか知らないが非常におかしい気分になってきて、クスクス笑い出したのであった。それをみて幸子も同じように笑ったのであった。

「カフェでお茶でも飲みましょう」
「ああ、いいよ」
二人はホテルロビーにある、カフェの窓際の席に着いた。
「私さ、実は悩んでいるのよね」
「いったい、何を?」
「うん、それはね」
「うん、うん、」
「今の業界に友達がいないことかな・・・」
「それで、誰か知っている人が同じ業界か、それが無理でも、関係の深い業界にいれば心強いなって思ってね」
「それ、俺にその業界とやらに入ればってこともしかして?」
「実はそうなの!」
Aはあっけにとられた。いきなりなんてことをいうのかとも思ったのであった。確かにAは見栄えもそれほど悪くはなかったのであるが、芸能界というものに常日頃から苦手意識と、自分には到底向かないという意識しかなかったのであったので、Aは即座にその話を突っぱねたのであった。
「ごめん、俺はそういう業界駄目なんだ・・・。」
「すまない」
Aは両手を合わせて幸子を拝むポーズをしていたのであった。幸子は仕方ないわねという顔をしたのであるが、内心予定通りだとほっと胸をなで下ろしていたのであった。そして、その時な、なんと幸子は、事態が突如急変するようなとんでもない台詞をはいたのであった。
「だったら、私たちもう終わりね」
「え、なんてことをいうんだい、ちゃんと謝っているじゃないか!」
「自分から突然呼び出して置いて、突然なんて言い草だい!」
その時激しい怒りと憎悪が一気にAの心の中にこみ上げてきたのであった。無理もないさっきまでAは幸子の本命のつもりでいたのだから、同じ業界にはいれないくらいで別れたいと言われること自体心外で信じられないことだったのであるから。

Aが突然の別れ話に、ショックでものすごい形相になるや否や、幸子はさっとその場を立ち去ろうと踵を返して、カフェの入り口の方へ小走りをしだしたのであった。
「おい、待てよ」
慌てて追いかけようとしたAであったがお茶もまだであったが伝票もまだなのに気づきこれだけあれば足りると思いお釣りもいらないという形でそのまま1000円札を2枚テーブルの上に置き、すぐさま幸子の後を追ったのであった。

しかし、もう幸子はもう既に会う前からAのことをとっくのとうに、胡散臭いと思い始めていたのであったのであるから、やっとその本心を本人に言えてスッキリした状態であったので、できればこのまま右と左に分かれたいくらいなのであった。生活観とか世界が変わると今まで長年付き合ってきた恋人を捨ててしまう。そんな話は昔から五万とあるのであるが、この二人はそれとも少し、嫌、だいぶ違っていた。最初から幸子にとって、幸子が芸能界に入る前から、Aはただのパシリの存在でしかなく、少なくとも幸子から見てこのAなる男が自分の恋人などと思うことはただの一度もなかったのであるから。

いつの間にか外に出て暗がりを走る幸子のことを、後ろから追いかけている自分の哀れな姿にAは気づいたのであった。なんとも惨めな様であり、今日のこの時までの薔薇色の気分はどこかに吹き飛び去り、自分の顔が鬼面のように変化していくさまを感じずにはいられなかったのであった。心は憎しみの炎が吹き荒れていたのである。このまま幸子と終わってしまったら、このあといづれ上京してくる他の仲間にどういう顔をすればいいのであろうか?そういう問題も、頭の中を走馬灯のように巡りだしているのであった。

上京してきた仲間の前で笑い者になる自分の姿が、何度も頭の中に浮かび屈辱で額から汗がたくさん流れ落ちだし、苦痛で顔が歪んできだしたのであった。幸子と会うために、東京に行くのに既に借金まで出来ていたのである。
「いったい、全体なんてこったい!」
あきれ返るようにそう呟きながら改めて辺りを見回すと既に幸子の姿はどこかに掻き消えていた。Aは心に誓った。
「幸子!俺はお前を許さない。このままで済むと思うなよ」
夜空を見上げると満月が黒い雲の隙間から見え隠れしていた。Aはそこで深いため息を何度も吐いてから、身のそこから湧き上がる激しい苦痛と怒りに対して、もだえながら深呼吸をして体制を整えたのであった。

アパートに戻ったAは、ショックと怒りに打ち震え床についたのであった。無理もない。あのような態度を取られれば誰だってそうなるのは当然であろう。気づいたらしゃくりあげて枕をビショビショにぬらしていたのであった。幾度も、止め処もなく、涙の筋が頬を伝っては落ちてきているのであった。もはやこのままでは、何処にも自分は帰る場所もなければ未来の希望ももうないのであった。少なくともその時はAはそう思っていたのであった。Aの脳裏にハッキリと幸子への復讐の思いが強く沸きあがってきたのであった。そしてAは必ずそれを実行しようと思ったのであった。心に、硬く決心をしたのであった。 

それからのAの行動は目まぐるしかった。その瞳は復讐の炎で毎日のように赤々と燃えていたのであるが、復讐の手段や、段取りは毎日飽きもせず長々と時間をたっぷりとかけて、構想を練りに練っていたのであった。故郷の幸子を囲んでのパシリ仲間とも連絡をマメに取り合っていた。仲間のほうから、電話も時折掛かってきて、数名、東京に来るはずの仲間の人数は7人で、Aをあわせると全部で8人になる予定であった。しかし6畳一間に8人はちょっときついよなと苦笑いをしていたが、そのうち半分は、東京に親戚とか友人がいるのでそこでお世話になるらしく、4人だったら何とかなるかなと思っていたのであった。少々部屋がきつくなってくるのは間違いなかったのであるが、元来お人よしで気のいいAは、そのことを苦にはしていなかったのであった。しかし、人がよくても幸子への怒りはもう収まりきらないものになっていたのであった。彼は幸子のこの裏切りを絶対に絶対に許せないと思っていたのであった。

 まず、先程話した復讐の手段であるが、それはどういうものかというと、まず彼女の連絡先はわからないが、彼女の事務所はハッキリと場所がわかっているので、そこをターゲットに動くということであった。つまりそれはどのような事であるかと言うと、できる限りマメにその事務所ビル周辺をうろつき徘徊をするというものであった。一見そんな、なんともお粗末なやり口と思われるが、実はこの行動は何よりも重要なことであったのであった。そこだけがはっきりとした彼女の所在地である以上そこをターゲットに動く以外、手段は何一つないのであるのだから、探偵を雇って彼女の住まいを発覚するには多額な金が必要であるし、そのような大金は現在のAは、幸子に会うために東京に出る資金に使い果たしていて、もうその為に一生懸命蓄えた貯金も、残り僅かしか持ち合わせていなかったのであるから。 

そして3月の末ごろから、毎日のようにAは、幸子の所属事務所周辺をうろつくようになったのであった。無精ひげも剃らずそのまま伸ばし放題で、煤けた暗い色の帽子を深々と被って元の人相がわからないように色つき伊達めがねも欠かさなかったのである。まるでその姿はさながら薄汚れたスラム街の乞食のようであった。もはや前の爽やかで好青年のAの姿は、既にそこにはなかったのである。街のビルの上の大きなスクリーンに幸子の姿が映ると、突然に、まるで狼の遠吠えのように大きなドラ声を辺り一面に轟かせて、周囲の人々を不気味がらせたりもしていたのであった。 しかし、その孤独な徘徊活動もそう長くは続かなかったのであった。 そう、もうすぐ仲間が上京してくる。そうしたらすぐ本格的に行動をはじめてやる!Aのその本格的行動とはいったいなんなのであろうか?想像するだに恐ろしいのであった。そして、とうとう仲間が上京してくる日がやってきたのであった。

幸子の他殺の証明・・・・4