幸子の他殺の証明・・・・4

4月6日に仲間は、上京してきたのであった。半分はそれぞれの親戚の下へ、そして残りの半分は、Aのアパートにとりあえず、居候することになったのであった。Aは自分のアパートの部屋で、集まった4人の仲間と、無精ひげを絶えず指で摘んで引っ張ったりしながら談笑をしていたのであった。仲間の4人は変わり果てたAの姿に驚きを隠せない様子だったのであるが、すぐに触れてはいけない何かに全員が気づいている様子であった。誰も一言も幸子のことをAに尋ねるものはいなかったのであった。第六勘だろうか、そのことをAに決して尋ねてはいけないということを瞬時に全員が察したのであった。みなAへの懐かしさと思いやりに満ちた態度であったが、いづれは誰かが幸子の話をしないではいられないのも気づいていた。その問題を最後まで避けるのは無理なのも全員がわかりきっていることであったのである。何しろ、幸子のことで話しがあるとAから、電話で切り出されたのもこれもまた真実、事実なのであったのであるから。

 そろそろ、日が暮れだしてきていた。Aの目がハッキリとわかるくらい血走ってきだした時であった。仲間の一人が、その話題の口火を切ったのであった。
「ところで、幸子は元気かね・・・」
もっともらしく精一杯、穏やかに問いかけたつもりであった。その瞬間Aの瞳がうるうると潤んだようにもみえたが、すぐにまた激しく血走りを、気迫とともに周囲にその瞳から発する火花に似たギラツキを、撒き散らしだしたのであった。
「元気も何も・・・・もうすぐ昇天するぜ!」
 その声は笑いを含んでいるようにも聞こえたが、やはり主体は怒りと憎悪に満ち溢れて震えるように響いていたのであった。既にAの心は悪魔に蝕まれ、今となってはもはやそれを誰も止めることなどできない様子であるのであった。それを察した幸子のことを質問した仲間は、すぐに話題を変えようとしたが、Aはもう止まらなかった。
「いいよ、誤魔化すなよ、きちんと話しようぜ」
「幸子は俺のことをボロ雑巾のように捨てたんだ、ただじゃすまさねぇ」
Aはそういい終えると、すぐに復讐計画の話の本題に入っていった。誰もそれに意義を唱えるものはいなかった。既に仲間たちもAと同じ気持ちになっていたのであった。彼らは仲間になるだけあって、思想もピッタリあっていて、抜群のコンビネーションだったのであった。それは今にはじまったことでないのである。故郷にいる頃から、彼らはいつもそうなのであったのであるから。

幸子に従順に仕えるパシリ時代から、彼らの仲間の呼吸はいつもピッタリと合っていたのであった。苦しい時も辛い時もいつも一緒なのであった。馬鹿にされればいつもみんなで励ましあっていたし、他のパシリのグループに幸子を取られた時は悔しくて仲間全員で涙していたほど団結力が強いのも思い出深いことであった。野暮用でも幸子の為に命令をされればどこにでも変わりばんこにすっ飛んでいたのであった。

だが、もうそれも限界が来ていた。そのような過去の行動はすべていつか自分たちの仲間の中から誰でもいいから幸子に選んでもらって、真面目に付き合ってくれるならとの一念での行動であったので、その頼みの綱であったAがいとも簡単に捨てられてしまったとなっては、これは仲間全員が同時に捨てられたのと同じことであったのである。喜びも一緒であるが苦しみも共に分かち合う習性が彼らにはごく日常の当たり前のことであったのであった。

彼らの結論はもう決まっていたのであった。・・・・そして、彼らは、その日から毎日、昼夜問わず交代で幸子の所属事務所周辺を見張るようになったのであった。

そしてAはなるべく近くのベンチで、仮眠しかとらないようにして常に周囲に控えていたのであった。もし、眠くなったのなら、頭からペットボトルに溜めた水道水をぶっ掛けたりしてもいたのであった。睡眠不足で、霞んだ目に遠くにカラスが群れをなして飛んで行くのが見えたのであった。

 Aが仲間たちと幸子の事務所周辺を毎日朝から晩まで、交代でみはるようになって2日目の4月8日のことである。とうとうその時が、訪れたのであった。それまで24時間、ほとんどぶっとおしで交代で仮眠を交えながら、事務所ビル周辺を見張っていたのであったが、その間仲間の誰一人も、幸子の姿を発見することができなかったのであった。

もう、その日も幸子の姿を発見するのを諦めかけていたのであった。ちょうど、8日の午前中であったであろうか、と、その時であった。ビル一回の玄関からみえる渡り廊下を小走りに女性が走る姿が目に映ったのであった。その姿は紛れもなく幸子であった。
「おう!」
小さい声でしかし、ハッキリと仲間に聞こえるように、しっかりとした口調でAは仲間にわかるように合図を送ったのであった。その合図は綿密に緻密に何度もAのアパートで話し合って決めた合図であったのである。それなのですぐに瞬時にその合図の意味を仲間全員が理解し、共に同じ行動を取れるようになっていたのであった。

そして、仲間たちはビルの外だけではなく、ビル中にも何人か待機をしていたのであった。ビル周辺だけでは、もし裏口から幸子がビルに入場した場合気づかないのであるから、これは当然の配慮である。

まず、Aが先頭を切ってそのあとを追ったのであった。幸子はビルの壁側面にある階段を上に向かってどんどん走っていく。その後をしっかりとAは追いかけていったのであった。よく目を凝らして見ると、幸子の服装はあの別れ話が出た、ホテルWのロビーで着ていたあの黒のワンピースのようであるのがわかった。Aと幸子二人の間には、少し距離があったが、まず間違いなくあの時と同じ服装であるように思われたのである。不思議なことに幸子は一目散に走っていく様子で、絶対にこちらを振り向いてくることはなかったのであった。さっきの合図によって、少し遅れて仲間が後を追ってくることになっていたのであった。

そして、幸子の後を追っていたらついに屋上に辿り着いてしまったのであった。Aは咄嗟に叫ん
だ!
「おい!まてぇこらぁ~~!!w」
すぐに幸子はギョッとした表情で振り向いたのであった。
「おまえよくも俺のことをボロ雑巾のように捨ててくれたな!」
幸子は、あまりもの突然の出来事に青ざめ仰天していたが、すぐにこう言い返した。
「何をするの!やめて!私が何をしたっていうの?」
「私たちこの間別れたはずよ」
「俺が了解したとでもいうのか?お前は返事を聞く前に勝手に走って逃げたじゃないか?!」
「一緒の世界じゃないと付き合えないだと?お前何様だと思ってるんだ!!」
「だったら事務所の人と話し合ってよ、だけど無理よ、私はあなたみたいな自分勝手な人とは絶対にやっていけない!」
「何ぃ~~!俺とか仲間がお前にいくら使ったと思っているんだ!1000万はくだらねぇ!幸子、お前に人間の恐ろしさを思い知らせてやる」
そのあと幸子が返事をする前に、気づいた時には、既にAは幸子の胸倉を掴んで殴りかかっていたのであった。嫌、そう思っているうちにもうボカスカ、幸子の顔を力任せに殴りだしていたのだ。幸子はすぐにぐったりしたのであった。そして、幸子の顔からは血の筋がタラタラと流れ出だしはじめたのであった。

大人の男の力で女性の顔を力任せに殴れば、下手をすると死んでしまっても不思議なことではなかった。よくみると、力任せに殴られてしまった為に幸子の顔には、誰がみてもはっきりとわかるように、傷や痣が現れ、口の端は切れてしまい、そこからも血がぶくぶくと沸きあがってきていた。きっとこのままいつもの世界へ戻してしまえば、誰かが、一目この顔をみれば、何が起こったのか幸子の周りの全ての人間に悟られてしまうだろう。しかし、もうもとの世界へ幸子を戻すつもりなど、Aには到底なかったのである。それはもう自分の保身の為にも現実的に無理であったのである。

と、その時、確かに微かに幸子の右手が動いたのがわかった。つまりこの時点では確かに幸子の息はまだあったのであった。確かにこの時点では、しかし、もう今のAにはそのことに対して躊躇や戸惑いをしている時間はなかったのであった。今、こうしている間にも誰か幸子の事務所の人間がこの屋上に来るかもしれないのであるから。

そこへ仲間がすぐ数名駆けつけてきた。その中で一番体が大きくて背の高い男がすぐにぐったりした幸子をAの元から引き離し抱き上げたのであった。それと同時にその場の状況をその男は瞬時に察したのであった。そして男はこういったのである。
「これを、このままここに置いてはおけねぇなぁ・・・」
「じゃあ、一体どうするんだよぉ~~!」
体の大きな男はすぐに答えた
「それじゃあ、ほかすかぁ~~!」
そして、その体の大きな男は残酷にも、まだ微かに息のある幸子の体を、その後すぐにビルの通りに面した側にある大きな看板に向かって少し小走りに近寄ると、まるでフットボールのシュートをするようにポーンと幸子の体を看板の向こうにめがけて放り投げたのであった。

それは一瞬の出来事であった。幸子の均整のとれたコンパクトボディが黒いワンピースの裾をヒラヒラと宙に舞わせながら、目の前のビル前に面した大きな看板の上をふわっとまるで黒いゴム鞠のように体を弾ませながら、くねっと持ち上がるように飛び越えたのであった。

その直後にすぐビルの下からうぉおおお~~とかきゃああああとかどよめきが聞こえてきたのであった。

その後Aとか仲間はすぐどさくさに紛れてその場から消えてしまったのであった。その後彼らがどうなったのかはわからない。ただわかっているのは幸子がその日以降、誰にも姿をみせなくなってしまったことだけである。

(果たしてこれは盗作か!)


しかし、人間というものは過去にあれほどまるで奴隷のように尽くしてきていたのに、最後にはこんなにも変わり果てたように残酷になれるものなのであろうか?しかも、よってたかって集団で追い詰めてからである。しかし、それもまた真の人間の姿の一面なのであろう。誠につくづくと考えさせられる恐ろしい人生の修羅場とも言える、一場面であったと思うのである。