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幸子の他殺の証明・・・・2

そして、とうとうその日はやってきた。この時が実現したのもすべて仲間のおかげでもあったのであった。Aへの幸子を囲んでの昔ながらのパシリ仲間からのカンパは惜しみなくAに対して与えられたのであった。仲間たちからしたら、仲間の喜びは自分たち全員の喜びでもあるのであるから、当然早くその時を実現すべく、湯水のごとく東京へ行く資金繰りのカンパをAに降り注いだのであった。その善意と協力がとうとう実る日が来たのであった。それは確かある年の3月上旬のことであったと思う。

駅のホームには中学生時代からの幸子を囲んでのパシリ仲間が、ズラリと全員勢ぞろいして、もうすぐ出発する電車の中にいるAを見送ろうとしていた。その人数はザッと30名ほどであろうか?思ったよりその日が早く実現したのも、実をいうと最近幸子との連絡が途切れがちでAが、イライラしてきていたのもその原因のひとつであった。そのことをAはすぐにパシリ仲間たちに相談をしたのであった。その他にも、Aは電話がやっと来てもその内容があまりに素っ気無いのにも悩みだしていたのであった。ひどい時はろくに会話もせず
「またかけるね」
と一言でガチャ切りも増えていた。そうこうしているうちに、東京に行く以外は彼女の心を繋ぎ止めるのはもはや無理だとAも確信するにまで至っていたのであった。

いくら幸子が連絡先を教えなくとも、もう今や幸子はアイドルであり、有名人であったので、彼女の事務所の所在地はもうわかりきっていたのであった。無論Aはその近郊に住まいを借りる手はずを、既に整えていたのであった。

そして、念願の東京に彼は今、着いたのであった。東京駅からさらに代々木方面の電車に乗り換え、代々木駅で降り、そこから徒歩20分ほど歩いたとこに彼の新居はあった。古びたアパートであった。

最初に話した幸子の一縷の悩みが異性関係と話したが、実は幸子はこの取り巻きのパシリたちをどう清算しようかと悩んでいたのであった。その理由としては、口約束ではあるが、結婚の約束までしてしまっていたし、
(それは、前に会話の中でAがもし僕たちが結婚したら・・・・という問いかけに生返事で頷いてしまったということである)
自分のためにかなり高価な数々のプレゼントを買わせていたり、
(もちろんA自身が自らすすんでそうしていたのであるが)
自分のコンサートのチケットも行けない日であっても買ってもらったりしていた。だから幸子にもAに対して強く拒否の態度を取れない理由も充分あったのであった。しかし、今や売れっ子の彼女にとって、事務所まで押しかけられて騒がれてはここまで築き上げてきた人気や実績に簡単に罅をいれ、いやそれどころか、歌手生命まで奪われてしまう自体にもなりかねないと先を思いやって悩んでいたのであった。それは無理もないことであろう。過去にも一連のスキャンダルに悩み歌手生命やアイドル生命を奪われたタレントは少なくなかったのであった。幸子もまたその不安の影に怯えるようになっていたのであった。

事実つい最近Aに電話をした時にAの「もうすぐ東京に行く」という言葉に幸子は本気で悩むようになっていのであった。その為に不安で眠れない夜もあるくらいであった。

「どうしよう。せっかくここまで人気を築き上げてきたのに・・・・・」
幸子は自然に冷や汗がでて吐き気を催してしまうことも次第に増えていったのであった。すべて悩みの為に神経が磨り減ってきている為であった。仕事中も常に胃薬を携帯するようになっていた。実際今ではオリコンで上位にはいるほどの人気であったのであった。ここまで築き上げたものを失うのはどうしても嫌であったでのある。それは当然のことであろう。

そして嫌ではあるがいきなり連絡を絶つとどういう風に出てくるのか心配でもあったので、幸子はAにまたいつものように公衆電話から電話をかけてみた。するとすぐにAの母がでて、
「あの子は東京へ行きました、新しい電話番号を託っています」
といい、すぐに幸子にその連絡先を告げたのであった。この時、Aの母親が幸子のことをあのテレビにでている売れっ子芸能人と知っていて話していたかは謎である。

そのあとすぐに幸子は新しいAの電話番号に電話をかけた。無論公衆電話からであった。すぐにAは電話口に出た。
「どうしてきちゃったのよぉお~~!」
「約束したじゃないか」
「約束って何が?」
「東京に行けばもっと会えるって・・・」
幸子は無言になった。
「幸子・・・・」
Aは戸惑ったのであった。

その戸惑いは図星であった。幸子はAが迷う以上に、はっきりと嫌悪感もあるほどにAと縁を切りたがっていたのであった。有名スターとなった今となっては幸子にとってAの存在はただただ邪魔でしかなかったのであった。Aのほうはもう幸子からプロポーズを受けている気分から抜けきれないのであったので、まさか幸子が自分と縁を切ろうとしているなどと予想もしていなかったのであった。なので、Aのほうは今すぐ一緒になろうと言われても困るなという、なんともおめでたい自意識過剰に基づいた見解で心が揺れているだけであったのであった。その大きな見当はずれは、むしろ、今すぐにも不幸な険悪なムードに突入するのだけは少なくとも防いでいるはずであった。

長い沈黙に耐え切れずAは自分のほうから
「忙しいならいいよ、また電話して」
と即座に告げると受話器を電話機の上に置いたのであった。Aはこの時点でも幸子の本心にはまったく気づくこともなく陽気に鼻歌を歌いながら、これからしばらくお世話になるであろう、アパートの部屋の掃除をはじめたのであった。なんともおめでたいAの行動であった。

部屋に自宅から持ってきた今ではアイドルの幸子のポスターを天井に貼り付けると、Aは満足したかのように部屋の中央に大の字に寝転んだ。その部屋は和室の6畳一間で風呂なしであったが小奇麗で、手入れが行き届いているようにみえた。流しもピカピカに磨かれていた。トイレは共同で廊下の先にあった。他の部屋は全部で7つくらいありAの部屋をいれてちょうど8つであったと思う。それゆえ安上がりだった割には隣人が多いという点で、安心感があった。今のAの経済力ではこの状態がせいぜいであった。「これから俺の新しい人生がはじまる」Aははっきりとそう思い。顔は笑顔で満面であったのであった。やがて訪れる恐ろしい事態にその時は少しも気づくこともなくAはすっかり満足しきった様子で、アパートでゴロゴロと寝そべっていたのであった。寝そべりながら、東京駅の販売店で買ったお菓子のポテトチップを口にほおばっていた。いづれにしてもとても楽しげなAであった。その姿は間違いなくその時点では幸せそのものであった。あくまでその時点では。

そして、それとはまったく逆に、幸子のほうはまるで悪夢に遭遇したたかのように気分が落ち込み荒れていたのであった。―このやっかいものをなんとしてでもこれ以上自分に深入りしようとしてくるのを阻止しなければ、―その思いで幸子の心はいっぱいに膨らんでいたのであった。ただAを簡単に突き放すことも不可能に思われた。なんといっても事務所が某有名プロダクションビルであり、このビルが移動するということはどうにも考えられなかったし、たとえ、幸子が事務所を移籍したとしても、芸能界の事務所はどこもみな有名なので、今となってはここまで名が知れた幸子にとって、どこの事務所に移籍して移動しようがAがその気になればどこまでも追跡可能であったのであるから。幸子は一気に憂鬱になり顔色はみるみる蒼ざめてきたのであった。

なんとかしなくては、―時刻はちょうどある年の3月上旬の夕方の7時を指していた。―幸子はあせった。はっきりと、額から汗がでて、伝い落ちてくるのを頬に感じたのであった。血の気が引いたように蒼ざめた表情で、幸子が自分のマンションの部屋の電源ボタンを押した時に、ある考えが幸子の脳裏を過ったのであった。そしてその考えは必ず実行しなければならないと幸子は固く心に誓ったのであった。

その考えとは、Aととにかくどんな理由をつけてもいいから、一刻も早く別れてしまうことであった。まず一つの案として浮かんできたのは、絶対にできないことをお願いして、困らせて諦めてもらうと言うことであった。それは、自分と同じ世界に入ってもらうということである。Aは確かに容姿はよいほうではあったが芸能人になりたいと言うようなタイプでは大よそありえなかったのである。そういう華麗な世界で生きていけるような天分も華も持っているタイプではなかったのであった。であるから、多分その話を切り出せば、彼から断って来るのは目にみえていたのであるから。その方法がもっともベストと思われた。

Aは東京に着いた次の日、すぐに仲間に無事ついたことを電話で知らせた。その時に仲間の何人かから、もうじき自分たちも東京に行けたら行きたいと言われ、Aは咄嗟に
「住まいがないなら俺のとこに来てもいいよ」
と軽く言ってしまったのであった。しかし、Aは決してみみっちくてケチな男ではなかったので、その言葉を失言とは思わなかったのであった。一人でいるのも何かと寂しく、いつかかってくるかわからない幸子からの電話を待つのも辛かったのであったのだから・・・・・。

Aは仲間がいつか来るのを楽しみにしながら、東京でアルバイトを探すことにした。そしてそんなある日また幸子から電話がかかってきたのであった。
「せっかく東京に来たのだから会いましょうよ」
「もちろん、そのつもりで出てきたよ」
「どうせなら明日はどう?」
「だけど人目につくとやっぱり困るので深夜じゃないと駄目だけどいいかしら?」
「構わないよ」
そんな会話が続いたのであった。

そして、その明日の深夜はあっという間にやってきたのであった。Aはまだ東京にきたばかりで母に頼んでいた足りない荷物が届くのがまだだったために東京に来た当日の姿、そのままに、着の身着のままの状態であった。それでも心は楽しげに踊っていたのであった。そして、深夜の約束の時刻になると、幸子との待ち合わせ場所に直行したのであった。

 

幸子他殺の証明・・・・3へ続く