幸子の他殺の証明・・・・(幸子って何者や!)

 幸子は今や新進の売れっ子アイドルであった。出す曲はすべてヒットし、さまざまな部門で新人賞も勝ち取った。傍目にも順風満帆のように映っていた。しかし、そんな何もかもが薔薇色で絶好調のようにみえた彼女にも、一縷のしかし、かなり引っかかる悩みがあったのであった。

はてさて、その悩みとは?

幸子はその日オフで、街にショッピング目的でサングラスをかけて歩いていたのであった。そのサングラスは単に人目を避けるためであった。芸能人であるなら、外出の際に、当然の手段であろう。いたずらに人の視線を浴びるのはストレスが返って溜まる原因にもなるし、神経も休まらないものだからであろう。

幸子がある某有名百貨店で、目的ののものを買い終え、また百貨店のビルから離れ外を歩いて入る時であった。
―「すいません!」「幸子さんですよね。サインお願いします!」―
その元気のよい声に驚いて振り向くと、そこには、端々が、変色してもとはおそらく緑色だったのだろうが、変色して黄緑色にみえるキャップ帽を被った愛想のよさそうな少年が立っていた。服装は、これもまた結構その少年の普段の生活がそれほど豊かではないのを指し示すように、洗濯のし過ぎで色あせたようなグレーのトレーナーを着ていた。これももとは黒だったのだろうか?そして先に放したキャップ帽と同じでその端々が綻んでいた。そのみすぼらしい風情と反比例するように、少年はとても爽やかでにこやかなタイプであった。

それに、どんなにみすぼらしかろうが、幸子にとっては大事なファンだった。なので、幸子はその場ですぐにいつもサイン用に携帯をしているマジックペンをバッグから取り出して、どこにサインをすればいいのか尋ねたのであった。
「どこにサインしましょうか?」
少年は、すぐに自分の指で色あせたトレーナーの腹部分を指差した。
「ここにお願いします!」
その声は、気持ちがよくなるくらいにとても元気で明るい声であった。なので幸子は即座にマジックペンを利き手に取り、少年のトレーナーの腹部分におもいっきり、マジックペンを突き立ててサインをしたのであった。それは当然な行為であろう。

サインが無事に終わると、少年は軽く会釈をしてその場を立ち去った。少年が上着と同じく着古した感じの膝部分が破けて素肌が露出しているブルー
(もう色あせて水色に近いものであるが)
ジーンズの残像が、幸子の瞼にしばらく焼き付いていた。服装はボロであったが、とても明るく爽やかで感じのよい少年であった。

先ほどのファンへのサインの行動は、滞りなく何事もなくすべて終わった。しかし、彼女のファンはみんなああなのではなかった。それは、どういう意味かというと、幸子のファンはみな先ほどのサインを求めた少年のように素朴で素直で明るく爽やかなタイプばかりではないということである。そりゃあ、人間は十人十色であるから、色んなタイプのファンが幸子を取り囲んでいてもなんらそれは不思議ではないことであった。が、しかし、それならば一体他にはどんなタイプのファンがいるというのであろうか?

実は最初に書いた幸子の一縷の悩みのことであるが、その問題は幸子のデビュー前の過去から遡る問題であったのであった。

さて、では一体その問題とは?

その問題とは実は、ズバリ幸子の異性関係であった。幸子は、ハッキリ言って、芸能界では清純派アイドルで通っていたが、実際の幸子はなかなか学生時代はかなり若い頃から、つまり中学にはもう数名のボーイフレンドが取り巻くほどのモテモテのおませさんであったのであった。実際幸子はご覧のとおりチャーミングでスタイル抜群でおまけに美人であるし、いかなる状況であれど、異性が幸子を放っておくはずはないのであるから・・・・w。

そして、さらに問題をはっきりさせるならば、中学時代から彼女を取り巻いている、異性からその一縷の問題はあったと思えるのであった。彼女には事務所にも内緒の異性関係がデビュー後も水面下で続いていたのであった。しかし、それは恋人というよりは、哀しいことに、彼女にとってはハッキリ言えば、今で言う俗語のパシリのようなものでしかなかったのである。

それは一人ではなかった。なので、複数人数であるそのパシリなる彼らは、顎で指図をする彼女の命令をなんでも聞き入れ、彼女はまるでさながらSMの女王のような待遇を受けていたのであった。その全てが文字通り命令プレーであった。

しかし、いかなる場合でも彼女に逆らう男はいないのであった。その美貌、その風情、魅力に逆らえる男は何人たりともいないのであった。

            
実は多くのその取り巻きの異性の中に、彼女がデビュー後も連絡をと取り合う男性がいたのであった。しかしその連絡の取り方はやはりというか一方通行のものであった。なぜなら、寂しいことに、男性のほうからは決して彼女に連絡を取ることができないのであった。それはもちろんのこと、幸子自身の連絡先を男性に教えていないからであった。であるから、幸子が気が向いたときにだけ、数いるパシリだった男性の中から選ばれたA(仮名)に連絡が行く形であったのだ。しかし、それは、決してアイドルになってデビューして幸子が高ビーになったからそういう態度を取ったのではなくて、それにはもちろん事務所から、異性関係を絶つように言われたせいもあったからであった。そのことは無論、Aも聞かされていたし、誰もそのことに対して不服をいうものはいなかった。そしてパシリ軍団である彼らは、幸子に選ばれたAを中心に全員が彼女が故郷を去り、彼らの前に姿を現さずブラウン管のみでその姿をみれるようになったその時までも、連絡を取り合いそれぞれがみんな共通の彼女の成功の鑑賞者として連帯感を持ちながら繋がっていた。無論全員、彼女のその成功を心から我がことのように喜んでいたのであった。

そんなある日幸子は、いつものように外の公衆電話から、Aに電話をかけていた。盗聴されたり、着信記録を取られる恐れのある、自宅からは不安なので絶対に電話などできないからであった。
「お願いがあるの」
「知ってるでしょ?」
「今度のコンサート絶対に満席にしたいから、成功させたいからもし行けなくてもいいからみんなでチケットを買ってほしいのよ、買うだけでいいから」
Aは幸子の我侭には学生時代からもうなれっこであった。
「わかったよ」
いとも簡単にAはそう答えたのであった。

大勢いたパシリの中から自分だけが連絡をもらえる立場にまでなったことに優越感を感じていたAは、もはや幸子の為なら何でもする覚悟でいたのであった。電話はそれだけであった。いつも幸子の電話はそういう内容のものばかりで用件だけ告げるとあっさりと終わるのであった。だが、Aは信じていた。前に電話で幸子に
「もし、東京にあなたもくればしょっちゅう会えるのにね」
と言われてもいたのであった。そして、その言葉をAはすっかり間接的なプロポーズのように受け取っていたのであった。心はいつもその将来の希望に燃えていた。
「いつか東京に必ず行く」
Aははっきりと幸子や仲間にそう告げていたのであった。

Aも他の男たちと同じく、幸子のために数々の高価なブランドものの洋服やアクセサリーを送り、実際に行けなくとも必ずコンサートのチケットを買うのも欠かさなかった。そして、プレゼントを贈る時も今や有名アイドルである彼女に迷惑がかからないように彼女の家族の名前でプレゼントを贈っているくらい気配りと配慮を忘れない立派な男ではあったが、文字通り彼女の僕でありパシリそのものであった。

そして、約束どおりAは仲間にコンサートのチケットを幸子が買うように支持していることを告げると、さらにAは部屋で自分の預金通帳を開いて、ため息をついた。来年にはなんとかなるか・・・Aはため息をついた。Aは、目標としては、来年には東京へ上京をするつもりなのであった。

そして時は流れた。相変わらずブラウン管をみると幸子がマイクを持って歌を歌っていた。とても可愛らしく、鈴のような歌声であった。しかも既にその頃にはものすごい人気で熱狂的なファンの嬌声が画面一面に沸きあがっていた。Aはもちろん幸子のコンサートにも行ったことはあったが、Aは、己自身の精神疾患による妄想と、思い込みでパシリの中から唯一電話連絡をもらえる自分は事実上、幸子の彼氏だという自意識過剰の認識があったので、幸子の仕事の邪魔をしてはいけないと思うあまり、コンサートにも数回しか行かず、東京に行くための資金作りにアルバイトなどをして励んでいたのであった。そして、これもまたその自意識が故に思い込んでいる幸子からのプロポーズと信じきっていた。幸子から東京に来ればもっと会えるねと言われたその言葉はAにとって紛れもなく間接的なプロポーズの言葉であったのであった。

自惚れとも思えるAのその見解ではあるが、実際A自身そんなにダサイタイプではなく、実際に大勢のパシリから選ばれた男性であるのであるから、その外見風貌も中々のものではあったのであった。濃くてくっきりしたペンシルで描いたような眉毛に、キリッとした睫毛の長いパッチリとした目と鼻筋の通った綺麗な割と面長な顔立ちであった。従ってそんな色男のAに憧れる女性も絶えることはなかったのであった。ラブレターを受け取ったこともあれば、写真を撮らせてくれとせがまれて、後輩の女性に校庭で写真を撮らせてやったこともあったくらいであった。それほどにモテた思い出も豊富であったので、幸子の言葉は全て彼のために本気であると受け取っていたのであった。

そして一年はあっという間にたった今、とうとうAは念願の東京行きの日取りを決めることにしたのであった。他のパシリ仲間は悔しいとも思ったが昔からの仲間の彼を心から祝福し応援していたのであった。そう彼らは仲間の喜びは自分たちの喜びという姿勢を常に持っていたのであった。そして、喜び以外のものももちろん・・・・・。そしてそのことがやがて大きな悲劇と不幸をもたらそうとすることもこの段階ではA自身も誰も気づくものはいなかったのであった。

 

幸子他殺の証明・・・・2へ続く